運動科学の考え方のひとつに、身体意識理論があります。
身体意識とは、身体(からだ)と意識(こころ)双方にまたがる領域に形成された意識ですが、具体例を挙げると、古来から言われる「正中線(センター)」や「丹田(下丹田)」などがその代表格となります。
それぞれの身体意識は固有の性質を持って身心両面に影響を与えます。
例えば最近よく耳にする「ブレない」という言葉。
そもそも何が「ブレない」のかといえば、「軸(センター)」がブレない、ということであって、この言葉は「センター」という身体意識のもつ性質をよく表していることがわかります。
同じように、「肚(はら)がすわる」とは、下腹に形成される「下丹田」の性質を、「胸が熱くなる」とは胸の中心に形成される「中丹田」の性質をよく表していますが、実際にはこのような身体意識が他にも数多く存在することがわかっています。
20代の私が、「やる気」というものの中身を深く理解するために心理学を勉強したものの今一つしっくりと来なかった…といった体験談を前回ご紹介しましたが、その後30代の初めにこの身体意識の理論と出会った私はまさに「眼から鱗が落ちる」思いがしました。
例えば「やる気を出す」ということも、決して心の働きのみで完結することではなく、からだの働きも介在した身体運動の一つでもある、ということがよくわかりました。
●自分の取り組む対象に対して、真っ直ぐに向き合う。
●「よし、やるぞ!」と、自身の気持ちを高める。
●自分の目標に対して最短のコースを真っ直ぐに進む。
●困難や障害を物ともせず、常に前に進み続ける。
●自分を取り巻く人や環境とつながり合う意識を持ち、そこからポジティブなエネルギーを得る。
・・・これらは一見、「やる気」や「動機付け」についての指南書の一節のようですが、それぞれ異なる5つの身体意識について、それが形成された時の心境や行動の特徴の一部を書き出したものです。
ここでは「やる気」というテーマに沿った内容を集めたのですが、例えば「自信」「集中力」「粘り強さ」「創造力」「思いやり」…といった、教育現場で飛び交う「大切だけど実体が掴みづらい」他のキーワードについても、身体意識の働きとしてその中身を明らかにすることができます。
そしてこの身体意識は、具体的なトレーニングを継続することによって、誰でも確実に身につけることができる。
つまり、上に挙げたような「大切だけど実体が掴みづらい」根本的な能力や心の持ち様も、取り組み方次第で確実に身につけることができる、ということです。
では何をすればこの身体意識というものを身につけることができるのか?
・・・ということが次に気になることですが、その答えが「ゆる体操」です。
実はゆる体操は、身体意識を、簡易な体操を通して誰でも無理なく開発できるように考え抜いて作られた体操でもあったのです。